システム思考ゲームが育む、自分の学び方を捉える力：小学校でのメタ学習支援
なぜ今、自分の学び方を知る力（メタ学習）が必要なのか
現代社会は変化が早く、未来の予測が難しい時代です。子どもたちが成長し社会に出る頃には、現在存在しない職業に就いたり、未知の課題に取り組んだりすることが当然となるでしょう。このような時代において、単に知識を詰め込むだけでなく、自ら考え、判断し、学び続ける力が不可欠です。
新しい学習指導要領においても、「主体的・対話的で深い学び」の実現が重視されています。これは、子どもたちが受け身ではなく、自らの学習プロセスを意識し、調整しながら学ぶ力を育むことを目指しています。ここで重要となるのが、「メタ学習」と呼ばれる能力です。メタ学習とは、「学び方を学ぶこと」であり、自分の認知や学習プロセスについて客観的に理解し、コントロールする力を指します。
子どもたちが「自分はどのように学ぶのが効果的なのか」「なぜこの学習方法がうまくいかなかったのか」といったことを自ら考え、学び方を改善していく力は、生涯にわたって学び続けるための基盤となります。
メタ学習とは何か？ 小学校教育での意義とシステム思考との関連性
メタ学習は主に以下の3つの要素から構成されると考えられています。
- メタ認知的知識: 自分の認知や学習に関する知識（例：「私は朝の方が集中できる」「この問題を解くには図を書くと分かりやすい」）
- メタ認知的調整: 自分の認知プロセスを監視し、必要に応じて調整する能力（例：学習計画を立てる、理解度を確認する、うまくいかない時に別の方法を試す）
- メタ認知的体験: 学習中の感覚や感情（例：「この問題は難しいと感じる」「理解できたという手応えがある」）
小学校段階では、これらの要素の芽生えを育むことが重要です。子どもたちが自分の思考や感情に気づき、学習プロセスを振り返る機会を意識的に設ける必要があります。
システム思考は、物事を「システム」として捉え、要素間の関係性や構造、時間差による影響などを理解する考え方です。このシステム思考の視点は、メタ学習と非常に親和性が高いと言えます。なぜなら、子ども自身の「学び」もまた一つの複雑なシステムと見なすことができるからです。
例えば、「学習時間」「使用する教材」「集中力」「質問の有無」「休憩」といった要素が、学習の成果という結果にどのように影響し合っているのか。ある要素を変えると、他の要素や最終的な成果にどのような変化（遅延効果を含む）が生じるのか。システム思考のレンズを通して自分の学習プロセスを見ることで、子どもたちは学びのシステムにおける因果関係やループ構造に気づき、より効果的な介入点（学び方を変えるポイント）を見つけられる可能性があります。
「システム探検ゲーム」がメタ学習をどう支援するか
「システム探検ゲーム」は、子どもたちがシステム思考を楽しく体験的に学べるよう設計されています。このゲームの持つ特性は、メタ学習の育成においても有効に機能すると考えられます。
- 学びのプロセスの可視化: ゲーム内での操作や結果は、子どもたちの思考や試行錯誤のプロセスをデータとして蓄積し、可視化する機能を持つ場合があります。子どもたちは自分が行った操作と得られた結果を見比べることで、「このように考えた結果、こうなった」という因果関係を具体的に捉えることができます。これは、メタ認知的知識の獲得やメタ認知的調整を行う上での重要な手がかりとなります。
- 試行錯誤と振り返りの促進: ゲームはインタラクティブであり、子どもたちは様々な選択を行い、その結果をすぐに確認できます。予期せぬ結果が生じた場合でも、ゲームなので失敗を恐れずに何度でも試すことができます。この試行錯誤の過程で、「なぜうまくいかなかったのだろう？」「今度は別の方法を試してみよう」といった内省が促されます。ゲーム終了後や途中で、子どもたちが自分のプレイを振り返り、どのような思考でどのような操作を行ったのか、その結果どうなったのかを話し合う時間は、メタ認知的知識を言語化し、共有する貴重な機会となります。
- システムとしての理解の促進: ゲーム自体がシステムとして設計されているため、子どもたちはゲームを通じて「何かをしたら、他の何かが変わり、それがまた別の変化を引き起こす」といったシステム特有の振る舞いを体験的に理解します。このシステムに対する感覚は、やがて自分の学習プロセスも「Input（学習方法、時間）→Process（理解、定着）→Output（成果）」というシステムとして捉える視点へと繋がっていく可能性があります。
授業での具体的な活用方法：ゲーム後の振り返り
「システム探検ゲーム」をメタ学習支援に繋げるためには、ゲームを「やるだけ」にせず、ゲーム体験を元にした「振り返り」の時間を授業に組み込むことが重要です。
- 個人の振り返り: ゲームプレイ中に気づいたこと、うまくいったこと、うまくいかなかったこと、次に試したいことなどをワークシートに簡単に記録させます。この際、「〜をしたら、〜になった」という形で、自分の操作とその結果の因果関係を意識させる問いかけが有効です。
- グループでの共有: 少人数のグループで、自分のプレイを共有し合います。友達の異なるアプローチや考え方を知ることで、自分の学び方を相対化し、新たな視点を得ることができます。「どうしてそうしようと思ったの？」「その時、どう感じた？」といった問いかけが、子どもたちのメタ認知的体験や知識の言語化を促します。
- 全体での共有と教師からの投げかけ: いくつかのグループで共有された気づきや疑問を全体で共有します。教師は、子どもたちの発言を受けて、「〇〇さんは、うまくいかなかった時に△△という方法に切り替えたのですね。それは素晴らしい工夫です。」「いくつかのグループが同じところでつまづいたようですが、原因はどこにあったのでしょうね。」などと投げかけ、より一般的な学び方のヒントや、思考プロセスの見直しを促します。
このような振り返りを通じて、子どもたちはゲームでの成功や失敗体験を「自分の学び」というシステム全体の理解に繋げていきます。
教師の役割と期待される効果
メタ学習を育む上での教師の役割は、直接的に学び方を「教え込む」ことではなく、子どもたちが自ら学び方について考え、気づきを得られるように「促す」ことです。システム探検ゲームは、この「促し」のための具体的な素材を提供してくれます。
教師は、子どもたちがゲームに取り組む様子を観察し、個々のつまずきやユニークな発想を把握します。そして、ゲーム後の振り返りの際に、一人ひとりの子どもに寄り添いながら、「なぜそう考えたのか」「次にどうしたいか」といったメタ認知を刺激する問いかけを行います。子どもたちの言葉にならない感覚や体験を丁寧に引き出す関わりが求められます。
システム探検ゲームを活用したメタ学習支援によって、子どもたちには以下のような効果が期待されます。
- 学習に対する主体性の向上: 自分の学び方を理解し、調整できるようになることで、学習へのオーナーシップが育まれます。
- 粘り強さの育成: うまくいかない時でも、原因を探り、方法を調整することで課題を乗り越えられるという成功体験を積むことができます。
- 学習効率の向上: 自分に合った、あるいは課題に適した学び方を選択できるようになり、学習効果が高まります。
- 探究学習の深化: 自分の思考プロセスを客観的に捉えることで、探究の過程で生じる疑問や次のステップをより明確に意識できるようになります。
まとめ
システム思考ゲームは、子どもたちが抽象的なシステム思考の概念を楽しく学ぶだけでなく、自身の「学び」をシステムとして捉え、より効果的な学び方を追求する「メタ学習」の力を育む上でも大きな可能性を秘めています。ゲームを通じた体験、思考プロセスの可視化、そして丁寧な振り返りの機会を組み合わせることで、子どもたちは生涯にわたって学び続けるための強固な基盤を築くことができるでしょう。
導入や運用に関するサポートについても、システム探検ゲームの提供者は学校現場での利用を想定し、可能な限り円滑に進められるよう配慮しています。ご自身の学校のIT環境や子どもたちの状況に合わせて、まずはスモールスタートで試してみることも可能です。
ぜひ、システム探検ゲームを活用して、子どもたちの「学び方を学ぶ力」を育む新しい挑戦を始めてみてはいかがでしょうか。