システム探検ゲームが導く探究学習:質の高い『問い』を生み出し、思考プロセスを整理する
はじめに:探究学習における「問い」の重要性と課題
現在の小学校教育では、新しい学習指導要領のもと、子供たちが主体的に学ぶ探究学習が重視されています。教科の枠を超え、身近な疑問や社会的な事象に対し、自ら課題を設定し、情報を収集・整理・分析し、まとめ・表現する一連のプロセスを通じて、思考力、判断力、表現力、そして主体的に学習に取り組む態度を育むことが期待されています。
この探究学習において、その質を左右する重要な要素の一つが「問い」の設定です。「どのような問いを立てるか」によって、その後の探究の方向性や深さが大きく変わります。しかし、子供たちが一人で、あるいはグループで質の高い、つまり深く掘り下げられるような問いを生み出すことは容易ではありません。表面的な疑問に留まったり、どのように思考を進めれば良いか分からなくなったりするといった課題がしばしば見られます。
システム思考が探究学習の「問い」とプロセスにもたらす視点
ここで、システム思考の視点が探究学習に有効な示唆を与えます。システム思考とは、物事を単独の要素として捉えるのではなく、要素間の「つながり」や「関係性」、そしてそれらが全体としてどのように機能するか(システム)として理解しようとする考え方です。原因と結果が線形ではなく、複雑なループ構造になっていたり、目に見えない遅延があったりすることを考慮に入れます。
探究学習においてシステム思考を取り入れることは、以下のような点で子供たちの学びを深める助けとなります。
- 問いの深掘り: 目の前の現象に対して、「なぜそうなるのか」「他にどんな要因が関係しているか」「その要因はさらに何に影響を与えるか」といったように、原因や結果の連鎖、隠れた要因やつながりに関心を向けられるようになります。これにより、「〜は何だろう?」といった事実の確認に留まらない、「〜はなぜそうなるのだろう、他の要素とどう関係しているのだろう?」といった、より複雑で探究しがいのある問いを生み出しやすくなります。
- 思考プロセスの整理: 集めた情報や観察した事実から、要素間の関係性や因果の流れを整理する際に、システム思考のフレームワーク(ループ図など)が役立ちます。これは、思考の迷子を防ぎ、自分が何を理解し、何がまだ不明確かを構造的に把握することを可能にします。
- 多角的な視点: ある問題を考える際に、異なる立場や時間軸からの影響を考慮に入れる視点が養われます。これは、探究対象をより広く、深く理解するために不可欠です。
- 予測と検証: システムにおける要素間の関係性を理解することで、「もし〇〇を変えたら、システム全体はどうなるだろうか?」といった予測を立て、それを検証するという探究のサイクルをより意識的に回すことができるようになります。
このように、システム思考は、探究学習の出発点である「問い」の質を高め、その後の複雑な思考プロセスを整理するための強力なツールとなり得ます。
「システム探検ゲーム」が『問い』の生成と思考プロセス整理をどう支援するか
「システム探検ゲーム」は、子供たちがシステム思考のこれらの概念を、机上の空論としてではなく、実際に体験しながら学べるインタラクティブなデジタル教材です。ゲームを通じて、子供たちは仮想的なシステム内の要素を操作し、その結果としてシステム全体や他の要素がどのように変化するかを観察します。
このゲーム体験は、探究学習における『問い』の生成と、その後の思考プロセスを整理する上で、以下のように具体的な支援を提供します。
- 「問い」の出発点となる気づき: ゲーム内で予期せぬ結果や、直感とは異なるシステムの振る舞いに遭遇することで、「なぜこうなったのだろう?」「〇〇を変えたらどうなるだろう?」といった、自然な疑問や探究の動機が生まれます。これは、子供たちが自分自身の内側から「問い」を引き出す貴重な機会となります。
- システムとして問いを捉える体験: ゲームは要素間のつながりや時間的な遅延、ループ構造などを視覚的・体験的に示します。子供たちは、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って結果が生じることを体感します。この体験は、探究の問いを立てる際に、単一の原因に飛びつくのではなく、より広いシステムの中で関係性を考慮に入れる視点を養います。
- 思考プロセスの可視化と整理: ゲーム内のシミュレーションを通じて、自分が行った操作(原因)がシステム全体にどのような影響(結果)を及ぼすかを直接観察できます。これは、抽象的な因果関係や影響の連鎖を具体的に把握するのに役立ちます。教師は、ゲームプレイ中の子供たちの試行錯誤や発言を観察することで、彼らがどのようにシステムを理解しようとしているのか、どのような思考プロセスをたどっているのかを把握し、適切な問いかけやフィードバックを与えることができます。これにより、子供たちは自身の思考プロセスを振り返り、整理することを促されます。
- 仮説検証の繰り返し: ゲーム内で様々なパラメータを変更し、システムの変化を観察することは、探究学習における「仮説の設定と検証」のプロセスそのものです。「〜すれば〜なるはずだ」という仮説を立て、ゲームで試し、その結果から学びを得るというサイクルを繰り返すことで、粘り強く思考を深める態度が育まれます。
授業での活用:システム探検ゲームで探究の火を灯す
システム探検ゲームを探究学習の時間に活用する具体的な方法としては、以下のようなアプローチが考えられます。
- 探究テーマ導入時の活用: 地域の環境問題や学校の課題など、探究のテーマを提示する前に、そのテーマに関連するシステムをモデル化したゲームをプレイさせます。子供たちはゲームを通じてテーマの複雑性や関係性に触れ、そこに潜む課題や疑問点に気づき、「探究したい問い」を見つける手がかりとすることができます。
- 「問い」を深めるツールとして: 子供たちが立てた初期の問いが浅いと感じられる場合、関連するゲームをプレイすることで、問いに関わる要素間のつながりや隠れた側面への気づきを促し、問いをより深く、具体的に修正・発展させる機会とします。
- 思考整理・分析の補助: 探究活動中に収集した情報や観察結果を整理する際に、ゲームで体験したシステム思考の視点(原因と結果、ループ、遅延など)を活用させます。例えば、探究対象の要素間の関係を図にまとめる際に、システム思考のループ図の考え方を応用するといった指導が考えられます。
- 学びの発表・共有のヒントとして: ゲームのシミュレーション結果を引用したり、ゲームを通じて学んだシステム思考の考え方を用いて探究の結果を説明したりすることで、発表内容をより論理的で分かりやすいものにすることができます。
システム探検ゲームは、単に知識を伝達するだけでなく、子供たちが自ら考え、試し、学びを深めるための能動的な学びの機会を提供します。探究学習のプロセス、特に「良い問い」を生み出し、複雑な思考を整理するという難しい局面に、子供たちがシステム思考の視点を自然と活用できるようになることを支援します。
導入と運用に関する考慮事項
学校での導入にあたっては、IT環境や生徒のデジタルリテラシーの違い、限られた授業時間といった課題があることと存じます。システム探検ゲームは、直感的な操作性を目指しており、導入・運用に関するサポート体制も提供されています。また、生徒の習熟度や探究テーマに合わせて、ゲームの難易度や焦点を当てるシステム要素を調整できる機能も考慮されています。
ゲームプレイのデータからは、生徒一人ひとりがどのようなシステムを、どのようなアプローチで理解しようとしているのか、どのような点に躓いているのかといった思考プロセスの一部を把握することも可能です。これにより、個に応じた指導や、学習効果の評価にも繋げることができます。
まとめ:システム探検ゲームで、探究学習をさらに豊かに
システム探検ゲームは、子供たちがシステム思考を楽しく学ぶことを通じて、探究学習における「問いを深める力」と「思考プロセスを整理する力」を育む可能性を秘めたデジタル教材です。予測不可能な変化に富む現代社会において、自ら問いを立て、複雑な状況を理解し、主体的に解決策を見出していく探究力はますます重要になっています。
システム探検ゲームが、先生方の探究学習の授業をさらに豊かにし、子供たちの「自ら学ぶ力」を育む一助となれば幸いです。子供たちがゲームでの体験を通じて得たシステム思考の視点が、身近な現象や社会的な課題に対する探究へと繋がり、未来を生き抜くための確かな思考力の基盤となることを願っております。