システム探検ゲームが育む、複雑な事象を「モデル化」して捉える力
はじめに:なぜ今、複雑な事象を捉える力が必要とされるのか
現代社会は、様々な要素が複雑に絡み合い、相互に影響し合うシステムによって成り立っています。地球温暖化、経済の変動、テクノロジーの急速な進化、そして私たちの身近な学校生活や地域の出来事もまた、多くの要因が複雑に関係し合った結果として生じています。このような複雑な世界を理解し、より良い未来を築いていくためには、物事を一つの側面から捉えるのではなく、その背後にある構造や関係性、すなわち「システム」として捉える思考力が必要不可欠です。
この「システムとして捉える力」は、子供たちがこれからの時代を生き抜く上で求められる重要な資質・能力の一つとして注目されています。文部科学省が示す新しい学習指導要領においても、思考力、判断力、表現力といった「学ぶことと人間としての成長を結びつけるための資質・能力」の育成が強調されており、システム思考はその基盤となる考え方と言えます。しかし、システム思考は抽象的な概念を含んでおり、これを子供たちに分かりやすく、主体的に学ばせることは容易ではありません。
システム思考における「モデル化」とは
システム思考の重要なプロセスの一つに「モデル化」があります。「モデル化」とは、現実の複雑なシステムから、本質的な要素やそれらの間の関係性を抽出し、単純化された形で表現することです。例えば、私たちの体の仕組みを理解するために、臓器の働きや血管のつながりを図で表したり、天気予報のために大気の動きや気圧の変化を数式やコンピューター上で表現したりすることも一種のモデル化です。
教育現場において、子供たちが「モデル化」の力を育むことは、以下のような点で非常に重要です。
- 複雑性の理解: 見かけ上の出来事だけでなく、その背後にある「見えないつながり」や「時間差による影響(遅延)」を捉えることができるようになります。
- 予測と対応: システムの構造を理解することで、将来起こりうる変化や結果を予測し、それに対してどのように対応すれば良いか考える基盤となります。
- 問題解決: 問題の原因を単一の要因に求めず、システム全体の構造的な問題として捉えることで、より根本的で持続可能な解決策を見出すことに繋がります。
しかし、この「モデル化」という抽象的な思考プロセスを、座学だけで子供たちに習得させることは難しいのが現状です。子供たちは、具体的な体験を通して学ぶことで、より深い理解を得ることができます。
「システム探検ゲーム」が提供する「モデル化」体験
「システム探検ゲーム」は、「子供がシステム思考を楽しく学べるインタラクティブなゲームサイト」として開発されました。このゲームは、子供たちが仮想的なシステムの中で様々な課題に取り組み、試行錯誤する過程を通じて、システム思考における重要な要素である「モデル化」を体験的に学ぶことを目指しています。
ゲーム内では、プレイヤーは特定の目標を達成するために、様々な要素(資源、キャラクター、イベントなど)を操作したり、システムの状態を観察したりします。しかし、ゲーム内のシステムは意図的に単純化されておらず、要素間の複雑な関係性、時間差を伴う影響、予測困難なイベントなどが含まれています。
このようなゲーム環境において、子供たちは目標達成のために、自然と以下のような「モデル化」の思考プロセスをたどることになります。
- 要素の特定: 目標達成に関わる重要な要素(例:資源の種類、キャラクターの役割、発生するイベントなど)は何かを意識し始めます。
- 関係性の発見: ある要素を操作すると別の要素がどう変化するか、要素間にはどのような「つながり」があるかを探ります。これは、ゲーム内のインタラクティブな操作や、それに対するシステムからの応答を通して、体験的に行われます。例えば、「Aという資源を使うと、Bという結果が時間をおいて現れる」といった遅延を伴う因果関係を、何度もプレイするうちに体感的に理解していきます。
- 構造の認識: 要素と関係性の観察を繰り返すうちに、システムの中に繰り返されるパターンや、特定の入力が長期的にどのような結果をもたらすかといった「構造(ループ)」をぼんやりと捉え始めます。
- メンタルモデルの構築と修正: これらの観察や発見をもとに、子供たちは自分なりにゲーム内のシステムに対する「これはこうなっているのではないか」「こうすればこうなるだろう」という仮説(メンタルモデル)を頭の中に構築します。そして、実際にゲームをプレイしてその仮説を検証し、予期せぬ結果が得られた場合には、自分のもつメンタルモデルを修正していきます。
このように、「システム探検ゲーム」は、複雑なシステムを直接操作し、その応答を観察し、試行錯誤を繰り返すというインタラクティブな体験を通して、子供たちが自然とシステムをモデルとして捉え、理解しようとする思考プロセスを強力に支援します。これは、単に知識として「モデル化」を学ぶのではなく、「モデル化する」という行為そのものを体験することに他なりません。
授業での活用:モデル化思考を育むために
「システム探検ゲーム」を授業で活用することで、子供たちのモデル化思考をさらに深めることが期待できます。
- ゲーム前のアクティビティ: ゲームを開始する前に、生徒にゲームの目的や登場する要素について話し合わせ、ゲームの世界がどのように成り立っているかを想像させることで、要素特定への意識を高めることができます。
- ゲーム中の問いかけ: ゲームプレイ中に、教師が「これは何が起きているのかな?」「どうしてこうなったんだろう?」「この要素とこの要素にはどんなつながりがあると思う?」といった問いかけをすることで、生徒が意識的に要素や関係性を探り、モデル化を進めるよう促すことができます。
- ゲーム後のリフレクション: ゲームプレイ後に、生徒にゲーム内のシステムを絵や言葉で自由に表現させたり、ゲームを通じて気づいた「見えないつながり」や「仕組み」について発表させたりすることで、自分の中で構築したモデルをアウトプットさせ、整理・共有する機会を提供できます。これにより、生徒自身の理解が深まるだけでなく、他者のモデルに触れることで多角的な視点を養うこともできます。
ゲームを通じて得られるプレイデータは、生徒一人ひとりがシステムのどの要素や関係性に注目しているか、どのような仮説を持って試行錯誤しているかといった、思考プロセスの手がかりを示唆する可能性も秘めています。
まとめ
未来予測が困難な現代において、複雑な事象をシステムとして捉え、「モデル化」する力は、子供たちが問題を解決し、より良い選択をするための重要な基盤となります。「システム探検ゲーム」は、この抽象的な「モデル化」の思考プロセスを、子供たちが楽しく主体的に体験できるインタラクティブな学習ツールです。ゲームを通じた試行錯誤や教師による適切な働きかけを組み合わせることで、子供たちは現実世界に存在する様々なシステムに対しても、構造的に理解し、主体的に関わっていくための確かな力を育むことができるでしょう。