ゲーム中のエラー体験から学ぶシステム思考:意図しない結果が示す『見えないつながり』と自己理解
なぜエラー体験が学びの機会となるのか
新しい学習指導要領において、子供たちには予測困難な時代を生き抜くための資質・能力の育成が求められています。その中でも、複雑な事象を多角的に捉え、因果関係や相互作用を理解する「システム思考」は、問題を解決し、より良い未来を創造するための重要な思考力と言えるでしょう。
システム思考を育む上で、単に知識をインプットするだけでなく、実際に何かを試み、その結果から学ぶという体験が不可欠です。特に、計画通りにいかなかった「エラー」や「意図しない結果」は、学びを深めるための貴重な機会となります。なぜなら、それらはシステム全体の構造や、自身の思考プロセスに内在する「見えないつながり」や「思い込み」を示唆している場合が多いからです。
システム思考の視点で捉えるエラー
システム思考では、ある出来事(エラーを含む)を単発的なものとしてではなく、より大きなシステムの一部として捉えます。エラーや予期せぬ結果は、しばしばシステム内の要素間の相互作用や、時間の遅れ(遅延)、あるいは自身の入力や判断がシステム全体にフィードバックされた結果として現れます。
例えば、ある行動が良い結果を生むと思って実行したにも関わらず、時間が経ってから別の場所で予期しない問題が発生するといった状況です。これは、直接的な原因と結果だけでなく、複数の要素が複雑に影響し合っている「見えないつながり」が存在することを示しています。システム思考の視点を持つことで、このようなエラーが発生した際に、「誰かの失敗」として片付けるのではなく、「なぜこのシステム構造では、このような結果が生じるのだろうか」あるいは「自分のこの判断や操作は、どのようにシステムに影響を与えたのだろうか」という、より本質的な問いを立てることができるようになります。
「システム探検ゲーム」におけるエラーからの学び
「システム探検ゲーム」は、子供たちがインタラクティブなゲームプレイを通じて、このようなシステム思考のプロセスを体験できるデジタル教材です。ゲーム内では、プレイヤーの行動がシステム内の要素に影響を与え、様々な結果としてフィードバックされます。時には、プレイヤーの意図とは異なる結果、つまり「エラー」や「予期せぬ状況」が発生することもあります。
このようなゲーム中のエラー体験こそが、システム思考を深める絶好の機会となります。 1. エラーの体験と内省: ゲームの目標が達成できなかったり、予期しない問題が発生したりすることで、生徒は「なぜこうなったのだろう?」と考え始めます。これは探究心の芽生えであり、原因究明の第一歩です。 2. 原因の探究とシステム構造の理解: 生徒はゲーム内の状況を観察し、過去の自分の行動やシステム内の要素間の関係性を振り返ります。ゲームのインタラクティブな操作を通じて、様々な条件を変えて試行錯誤することで、「この要素を動かすと、あの要素がこのように変化するのか」「時間が経つと影響が出てくるのか」といった、システム内の因果関係や構造を体感的に理解していきます。エラーは、こうした「見えないつながり」を浮き彫りにする役割を果たします。 3. 自己の思考パターンへの気づき: 繰り返し同じタイプのエラーをしてしまう場合、それは生徒自身の特定の思考パターンや判断の癖がシステムに影響を与えている可能性を示唆します。「自分はいつもこの情報を軽視してしまうな」「とりあえずこれをやってみよう、と考えてしまうな」といった、自身の認知の偏りや行動パターンに気づくきっかけとなります。これはメタ認知能力の育成に繋がる重要な要素です。 4. 学びの応用とシステム改善: エラーの原因とシステム構造、そして自身の思考パターンへの気づきを得た生徒は、次のプレイで異なるアプローチを試みます。計画を修正したり、異なる視点から状況を捉え直したりすることで、より良い結果を生み出すためのシステムへの働きかけ方や、自身の思考プロセスを改善していきます。
授業における教師の支援の重要性
「システム探検ゲーム」を用いた授業で、生徒がエラー体験から効果的に学ぶためには、教師の適切な支援が不可欠です。単にゲームをプレイさせるだけでなく、エラーが発生した際に生徒に寄り添い、以下のような問いかけを通じて内省を促すことが重要です。
- 「どうしてこうなったと思う?」
- 「何か他に考えられる原因はある?」
- 「ゲームの中で、あなたが何かを変えたとしたら、それはどこに影響したかな?」
- 「もし次にもう一度同じ場面になったら、どうしてみる?」
- 「いつも同じようなところで困っているみたいだけど、何か気づくことはある?」
こうした問いかけは、生徒がエラーを単なる「失敗」として捉えるのではなく、システムを理解し、自身の思考プロセスを振り返るための「手がかり」として活用できるよう促します。
また、「システム探検ゲーム」は生徒のゲームプレイデータを記録し、思考プロセスの一端を可視化する機能(※もしあれば)を備えている場合があります。これにより、教師は生徒一人ひとりがどこでつまずいているのか、どのような思考パターンでエラーを繰り返しているのかを把握し、より個別最適なフィードバックや支援を提供することが可能になります。ゲームという形式は、生徒にとって失敗へのハードルを下げ、再挑戦への意欲を引き出す効果も期待できます。
まとめ
「システム探検ゲーム」を通じたエラー体験は、子供たちがシステム思考の核となる「見えないつながり」を理解し、自身の思考パターンに気づくための強力な学びの機会を提供します。エラーを恐れず、そこから学びを得る力は、変化の速い現代社会において、主体的に問題を解決し、より良い判断を下すために不可欠な資質です。
本ゲームが、子供たちがエラーを価値ある学びの糧とし、システム思考というレンズを通して世界を理解し、自らの学びを深めていくための一助となれば幸いです。小学校の先生方が、日々の授業の中で子供たちの「なぜ?」を大切にし、エラーからの学びを支援されることを願っております。