システム探検ゲームを使った授業で生徒の探求心を深める:効果的な問いかけと活動設計
はじめに:変化の時代に求められる探求心とシステム思考
現代社会は変化が速く、予測困難な側面を持っています。このような時代を生き抜く子供たちには、自ら問いを立て、情報を収集・分析し、解決策を考え実行する探求する力が不可欠であると言われています。また、一つの出来事が様々な要素や関係性によって成り立っているというシステム思考の視点を持つことも、複雑な課題を理解し解決する上で重要になります。
探求学習とシステム思考は密接に関係しています。ある現象を深く探求する過程では、その現象がどのような要素から成り立ち、それらがどのように相互に影響し合っているのか、つまりシステムの構造を理解することが求められるからです。システム思考を通じて「なぜそうなるのだろう」「他にどんな要因があるだろう」といった問いが生まれ、それがさらなる探求へと繋がります。
本記事では、子供たちがシステム思考を楽しく学べるインタラクティブなゲームサイト「システム探検ゲーム」が、どのように生徒の探求心を引き出すのか、そして教師がその探求に伴走し、さらに深めるためにはどのような問いかけや活動設計が有効であるかについて具体的にご紹介いたします。
システム探検ゲームが探求心を引き出す仕組み
「システム探検ゲーム」は、身近な事象をモデルにしたシステムをゲーム内で体験することで、子供たちが楽しみながらシステム思考の基本的な概念に触れることを目指しています。このゲームが探求心を引き出す仕組みには、いくつかの要素があります。
まず、ゲーム内のシステムは現実世界の複雑さをある程度反映しているため、プレイヤーは直感的に操作しても必ずしも意図した結果にならないことがあります。例えば、ある資源を増やそうとしても、別の資源が枯渇してしまうなど、「予期せぬ結果」が生じやすい設計になっています。この「予期せぬ結果」こそが、子供たちの「なぜ?」という探求の出発点となります。「どうしてこうなったのだろう?」「何が悪かったのだろう?」と考えることから、システム内の要素やつながりを探る主体的な学びが始まります。
また、ゲームを通じて試行錯誤を繰り返す中で、自分の行動がシステム全体にどのように影響を与えるのか、時間遅れ(遅延)を伴って結果が現れることなどを体験的に理解することができます。この体験的な理解は、抽象的な概念を学ぶよりも深く、子供たちの好奇心を刺激し、さらなる探求へと駆り立てる力となります。インタラクティブな操作を通じて即座にフィードバックが得られることも、探求のサイクルを加速させます。
探求に伴走する教師の役割:効果的な問いかけ
システム探検ゲームは生徒の探求心を引き出すトリガーとなりますが、その探求をさらに深め、学びを意味づけるためには教師の丁寧な伴走が不可欠です。特に「問いかけ」は、生徒の思考を整理し、次の探求へと導く上で非常に有効な手段です。
ここでは、ゲームの進行段階に応じた効果的な問いかけの例をご紹介します。
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ゲーム前:興味喚起と問いの設定
- 「このゲームではどんなことができそうかな?」
- 「身の回りの〇〇(例:公園の生態系、給食のサイクル)って、どんなものが関係し合っていると思う?」
- 「ゲームを始める前に、どんなことに気をつけてみたい?」
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ゲーム中:観察と状況把握を促す問い
- 「今、ゲーム内で何が起こっているかな?」
- 「何が増えて、何が減っているかな?」
- 「何か変わったことに気づいた?」
- 「次に何をしてみようと思う? それはなぜ?」
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ゲーム後:原因分析とシステム理解を深める問い
- 「ゲームの結果はどうだったかな?」
- 「どうしてうまくいった(あるいは、うまくいかなかった)と思う?」
- 「〇〇が増えたのは、何が原因だったんだろう?」
- 「システムの中の△△と□□は、どんな関係があると思う?」
- 「もし、このシステムに新しい要素(例えば、外からの影響)が加わったらどうなると思う?」
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振り返り・応用:学びの整理と実世界への接続を促す問い
- 「このゲームで学んだことは、身の回りのどんなことに似ているかな?」
- 「次に同じような状況になったら、どんなことに気をつける?」
- 「ゲームで使った考え方(システム思考)は、他のどんな場面で役に立ちそう?」
- 「もっと調べてみたいことはある?」
これらの問いかけは、生徒が単にゲームをクリアすることだけを目的とするのではなく、ゲーム内で起こる現象の背景にあるシステム構造や、自分自身の操作がシステムに与える影響について深く考察することを促します。生徒一人ひとりの反応に合わせて、開かれた質問を投げかけることで、多様な考えを引き出すことができます。
探求を支える活動設計のポイント
システム探検ゲームを活用した授業において、生徒の探求を深めるためには、ゲームプレイ以外の活動も重要です。以下に、効果的な活動設計のポイントを挙げます。
- 仮説設定と検証の繰り返しを促す: ゲームを始める前に「こう操作したらこうなるのではないか」という仮説を立てさせ、ゲームプレイ後にその仮説が正しかったか検証する活動を取り入れます。うまくいかなかった場合も、その原因を考察し、次の仮説へと繋げることで、探求のサイクルが回ります。
- 思考プロセスの可視化: ゲーム中の操作や、考えたこと、気づいたことなどをメモや図にまとめる時間を設けます。システム内の要素や関係性を図で表現させる活動(Causal Loop Diagramのような専門的なものではなく、簡単な線と矢印を用いた相関図など)は、思考の整理と共有に役立ちます。システム探検ゲームによっては、思考プロセスを記録・共有できる機能も利用可能です。
- 協働的な学び: グループでゲームに取り組み、考えや発見を共有する時間を設けます。友達の異なる視点や考え方に触れることで、一人では気づけなかったシステムの一面に気づいたり、より良い解決策を共に探求したりすることができます。ゲーム内の複数人で協力して課題を解決するモードなども有効です。
- 振り返りと発表: ゲームや一連の活動を通して学んだこと、次に活かしたいことなどを全体で共有する場を設けます。自分の考えを言葉にする経験は、学びを定着させ、次の探求への意欲を高めます。
これらの活動を適切に組み合わせることで、システム探検ゲームは単なるゲーム体験に終わらず、生徒の深い探求を引き出すための強力なツールとなります。
システム探検ゲームの機能と教師の伴走
システム探検ゲームには、生徒の学習状況を把握し、探求に伴走するために役立つ機能が備わっている場合があります。例えば、生徒一人ひとりのゲームクリア状況や操作履歴、特定のシステムの理解度などをデータとして確認できる機能です。これらのデータを活用することで、教師は生徒がつまずいているポイントや、特定のシステム構造への理解度を把握し、個々の生徒に必要な問いかけや追加のサポートを適切に行うことができます。
また、ゲームによっては、生徒がゲーム中に気づいたことや考えを直接入力できるメモ機能や、他の生徒と協力して課題に取り組むためのコミュニケーション機能などが搭載されていることもあります。これらの機能を授業内で意図的に活用するよう促すことも、生徒の探求プロセスを可視化し、協働的な探求をサポートする上で有効です。
まとめ:システム思考と探求心を育む協働的なアプローチ
不確実な未来を生きる子供たちにとって、自ら問いを立て、深く探求する力、そして複雑なシステムを理解するシステム思考は、どちらも欠かせない資質・能力です。システム探検ゲームは、そのインタラクティブ性とゲーム性によって、子供たちの「なぜ?」を引き出し、探求の扉を開く有効な教材となり得ます。
しかし、ゲームはあくまでツールです。生徒の探求をさらに深め、学びを確かなものにするためには、教師の丁寧な伴走が不可欠です。効果的な問いかけを通じて生徒の思考を促し、仮説検証や思考の可視化、協働的な学びといった活動を適切に設計することで、システム探検ゲームは教育目標に合致した、価値ある学習体験を提供します。
システム探検ゲームを授業に取り入れることは、子供たちの探求心を育み、システム思考という未来を生きる上で重要な力を育むための一歩となるでしょう。ぜひ、子供たちの「なぜ?」を大切に育む授業にご活用ください。